今宵、闇に堕ちようか
冷たい視線を感じて顔を動かすと、パッと玲子が視線を動かした。
なんだ? あいつ。
「問診いくぞ」と俺はいうと、院長室に向かった。
「どこにいっちゃったんだろうねえ。女の家に忘れてきたんじゃない?」
ケタケタとさえこが、患者用の椅子に腰かけて笑い声をあげる。
オンナ、いねえし。実家から出勤してるし。今日は、携帯もって、ハナモリに入ったところまで覚えてんだっつうの。
「それより長男の足はどうなった?」
さえこが、『息子の骨が折れたかも~』と仕事中に電話があったのが、三日前。すぐに見てやるから、来いっていって診察したら、打撲だった。そのままハナモリで処置して帰っていた。
長女のほうも、捻挫した足の治療に通院していた。悪いときが重なるときは重なるもんだ、と3日前に話したばかりだ。
「うーん。まだ痛いって言ってたから、夕方また連れてくる予定。帰ってきたら、予約いれて連れてくるよ」
「わかった」
「うん」とさえこがうなずくと、院長室を出ていくために荷物入れにしている籠に手をかけた。
さえこが立ち上がる直前に、コンコンと院長室のドアがノックされ、扉が開かれた。
「院長、社長から電話です」と玲子が顔をのぞかせてきた。
「あ、わかった」と俺は返事したまま、さえこをちらりと見る。
さえこは俺が視線を送る前にスッと立ち上がって、玲子から受話器を受け取りにいっていた。「はい」と俺に受話器を手渡ししてくれる。
「お電話かわりました。天道です」と保留ボタンを押してから、耳にあてた。
『天道君、おつかれ』としゃがれ声が耳に入ってくる。
『モニターで見ていたんだが、問診中かな?』
見てたんなら、問診中だってわかるだろうが。わかってて電話しておいて、何を言ってんだか。
「ええ。もう終わりですから」と言って、さえこに三本指をたてて見せた。
「3番ベッドねえ~。了解っ」
さえこが立ち上がって、院長室を出ていく。その背中を見送ってから、デスクにあるパソコンに視線を動かした。
「なにか?」
『天道君と水嶋さんのよくない話を耳にしたんだがねえ』
「はあ」と俺はさえこ張りの間延びした声で返事をした。 真似したわけではないが、思わず出ていた。
なんだ? あいつ。
「問診いくぞ」と俺はいうと、院長室に向かった。
「どこにいっちゃったんだろうねえ。女の家に忘れてきたんじゃない?」
ケタケタとさえこが、患者用の椅子に腰かけて笑い声をあげる。
オンナ、いねえし。実家から出勤してるし。今日は、携帯もって、ハナモリに入ったところまで覚えてんだっつうの。
「それより長男の足はどうなった?」
さえこが、『息子の骨が折れたかも~』と仕事中に電話があったのが、三日前。すぐに見てやるから、来いっていって診察したら、打撲だった。そのままハナモリで処置して帰っていた。
長女のほうも、捻挫した足の治療に通院していた。悪いときが重なるときは重なるもんだ、と3日前に話したばかりだ。
「うーん。まだ痛いって言ってたから、夕方また連れてくる予定。帰ってきたら、予約いれて連れてくるよ」
「わかった」
「うん」とさえこがうなずくと、院長室を出ていくために荷物入れにしている籠に手をかけた。
さえこが立ち上がる直前に、コンコンと院長室のドアがノックされ、扉が開かれた。
「院長、社長から電話です」と玲子が顔をのぞかせてきた。
「あ、わかった」と俺は返事したまま、さえこをちらりと見る。
さえこは俺が視線を送る前にスッと立ち上がって、玲子から受話器を受け取りにいっていた。「はい」と俺に受話器を手渡ししてくれる。
「お電話かわりました。天道です」と保留ボタンを押してから、耳にあてた。
『天道君、おつかれ』としゃがれ声が耳に入ってくる。
『モニターで見ていたんだが、問診中かな?』
見てたんなら、問診中だってわかるだろうが。わかってて電話しておいて、何を言ってんだか。
「ええ。もう終わりですから」と言って、さえこに三本指をたてて見せた。
「3番ベッドねえ~。了解っ」
さえこが立ち上がって、院長室を出ていく。その背中を見送ってから、デスクにあるパソコンに視線を動かした。
「なにか?」
『天道君と水嶋さんのよくない話を耳にしたんだがねえ』
「はあ」と俺はさえこ張りの間延びした声で返事をした。 真似したわけではないが、思わず出ていた。