今宵、闇に堕ちようか
「あ? いくらだ」
「一万円を千円札に」
「わかった」と俺は引き出しをあけて、千円札と鉛筆書きされてある茶封筒を手にとった。厚みがある封筒から、千円札の束を取り出した。

「大丈夫?」
「金ならある」
「違うよ。顔色が悪い。寝不足?」
 なんでわかるんだ? 前にも思ったが、なんで言い当てられるんだ。

「あくびしてねえし」
「夜遊びのしすぎ~」とさえこがケラケラと笑った。
「うるせえ」
「若いからって、遊びまくってるとすぐに体にでるようになるよ。ここらへんとか」
 さえこが俺の脇腹をつねった。

「うるせえ。遊んでる前提で話すな」
「悩み事? 話聞こうか?」
「うるさいんだよ!」と俺はさえこの鼻をつまんだ。
「いたい、いたい」と声をあげ、「鼻が高くなったらどうするの!」と文句を垂れた。
「高くなるならいいだろ。整形しなくてすむ」
「はあ? 整形なんてしません……て、高くなるなら引っ張られるのもいいかも」
 さえこがへへっと笑う。
 痛かったんじゃねえんかよ。

「もしかして、院長が眠れない理由って。私の保険関係?」
「は?」
 なんで知ってんだ?
 千円札を10枚ほどつかんで、さえこに渡して、一万円札を受け取った。

「社長から聞いたの。どういうことか話を聞かせてくれって。すぐに誤解だったからっていう連絡をもらったけどね」
「知ってたのか」
「うん。迷惑かけてごめんね。院長からきちんと説明があったって聞いたよ。ありがとう」
 さえこがぺこりと頭をさげた。

 たいしたことしてねえし。
「何もしてねえし」
「したじゃん。社長が納得できるように話してくれた」

「はいはい。両替終わったなら、さっさと受付にもどれ」
「もしかして、大事になってた?」
「あれはもう解決した」

「じゃあ、なあに?」
「なにが?」
「寝不足。女性関係?」
 さえこを見る。にこにこと笑って立っている。何か期待しているような視線だ、が俺に何を期待しているのか。期待しても何も出てこないのに。

「うるせえよ。さっさと仕事に戻れ」
「はあい。元カノと揉めてるなら、きちんと話をしたほうがいいよ。お互いきちんと納得しないとね」
 さえこが、両替ありがとうございました、とお礼を言ってから院長室を後にした。

 勝手に元カノと揉めてる、とかって決めつけやがって。間違ってねえけど。どうしていつも、言い当てられるんだ?
 意味わかんねえし。

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