今宵、闇に堕ちようか
 ほんと、まじでうざい。嫉妬とか、仕事に関係ない感情でハナモリをかき乱さないでくれよ。

『やっぱり。院長と話がしたいんだよ、元カノさん。一度でいいから、きちんと話をして別れたいんじゃない?』
 さえこからラインが届く。

 別れたい? そんなことあるかよ。別れたいなら、ライン攻撃なんて必要ないだろう。
 てか、そもそもさえこと話す内容か?

 俺はさえことホテルに言って、やることをやりたいだけ。旦那とセックスレスなら、簡単に堕ちると思ったから。手近なオンナだし。一番、楽な関係でセックスを楽しめる。

 それが恋愛相談室みたいなやり取りをしてるんだよ。
『うるせえ』
『暇だからラインしてやってんだ』
 立て続けにラインを送って、スマホをカウンターの上に投げた。

『暇なの?』とすぐに返事がきた。
カウンターに投げたスマホを手にとって、『飲んでる』と送信した。

『飲み相手がいなければ、私が付き合ったのに』
 ふっと口が緩む。

 馬鹿か。できもしないことを送ってくんな。旦那がいる家に帰っておいて、今更外に出られるのかよ。
『行こうか?』
 行けんのかよ。出てこれるのかよ。

『好きにしろ』
『どこに行けばいい?』
『東谷駅西口にある飲み屋』
『院長の地元じゃん。ハナモリ付近じゃないの?』
『相手がいねえから。地元で飲んでんだよ』
 俺は嘘をついた。ハナモリの近くの飲み屋に俺はいる。どうせ来れないのに。行く気もないくせに。

 誰かの妻である女が、そう簡単に家を出られるわけないだろ。
 フンっと鼻を鳴らすと、俺はスマホをまたカウンターに投げた。

「斎藤はどうしたい? あの二人を黙らせる手立てはあるのか?」
「あるわけないですよ。黒野さんも真田先生とも年長者ですし」
 結衣が口の中でもごもごと言葉をため込んだ。吐き出せない二人への文句があるのだろう。

「わかった。しばらく時間をくれ。解決策を考える」と俺はいうと、大将に勘定の合図をおくった。


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