今宵、闇に堕ちようか
 結衣はもう少し、一人で飲んでから帰るというから、俺は店を出る。ハナモリの駐車場に戻ると、車の運転席に座った。
 あいつ、本気来るつもりだったのだろうか。俺が飲みたい、相手しろ、といえば、家を出てくるつもりだったのだろうか?

 俺はラインを開いて、さえことのやり取りを読み返した。
 どこに行けばいい、って外に出る気でいたから、送った文字か? それなら今から呼び出せば、あいつは来るのか?

 俺がどんな下心をもっていようとも、俺と飲むのか、あいつは。
『会いたい』と俺は文字をうつ。少し指先が震えていたかもしれない。
 緊張したわけじゃない。ただ、少し車の中が寒いだけだ、と己に言い訳している俺自身に呆れた。

 すぐに既読の文字が表示される。どこにいけばいい、と返事がくるだろう。そしたら、ハナモリの駐車場に来いって送ってやろう。
『だれに?』
 は?

 俺はスマホの画面を直視したまま、頭が真っ白になった。
 だれに? って何がだよ。さっきのラインでのやり取りを考えれば、わかるだろうが。
 飲みの相手をしろってことだろうがよ。

『会いたい人がいるなら、会いにいったほうがいいよ』とさえこから立て続けにラインが届いた。
 完全に勘違いしていやがる。俺が違う奴に会いたいと思って、その心のうちをさえこに打ち明けているとでも思ったのかよ。

 信じらんねえ。あれだけ煽っておいて、勘違いで終了かよ。ありえねえ。
 俺は運転席の椅子をリクライニング機能で倒すと、スマホを握りしめたまま、瞼を閉じた。
 最初から、ハナモリの近くで飲んでいるっていえば良かった。

『ラインっ』という可愛らしい声を数回聞きながら、俺は眠りに落ちた。


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