今宵、闇に堕ちようか
 次はこいつ。電話の向こうから聞こえてくる女、水嶋さえこだ。

 どうせ、楽しいは最初だけだ。いつもそうだ。すぐに面倒な女になりさがる。主婦だからって、あっさりと後腐れない関係でいられるのは最初だけ。

 すぐにオンナの顔になるから、面倒くさい。面倒くさいんだ。

 わかっててもつい、次の女に手を出そうとする俺も俺だが。男の性だな。

『ケーキくれるの?』

「ほしいのか?」

 女はケーキに弱い。別腹で太るとか言いながら、甘いものには引っかかる。

『食べたいよ』
「なら、戻ってくるんだな」
『そうする』と返事をしたさえこが、電話がさっさと切った。

「勝手に切りやがった」と俺は、スマホに不満をぶつけると、車の助手席に置いてある紺色のセーターに手をのばした。

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