春はキミ
やっと午前中の授業が終わり昼休み

私お手製のお弁当を開けると思わずヨダレが垂れる

でも、なんだかお弁当の気分じゃなかった

なんと言うか、クリームパンの気分

あぁ、さっき見たからかしら

「ねぇ、綾音ちゃんでしょ?」

頭の上から降ってきたのは、聞き覚えのある声

「あ…」

見上げたそこには

先程、自己紹介の時見惚れていた

前田さん

「私、綾音と同じ学校だったんだよ?
あれだよね、綾音ちゃんって……」

しまったと思った

もう病気のことがバレてしまうのか

同情なんてされたくない

どうせ私の気持ちなんて知らない

深い深い悲しみに溺れたことはある?

死のうと思ったことあるの?

ねぇ、教えてよ

「いつも、優しい子でしょ?」

ぱっと前田さんの顔を見てしまった

握り締めた拳の力が緩む

「ほら、よくいろんな人の手伝いとかしてたでしょう?
掃除も最後まできちんとやるし
あと、お花の水やり!
毎日花壇にしてたよね?
綾音ちゃんが来ない時、私が水やりしてたんだよ?」

えへへと前田さんは笑った

「…うそ」

信じられなかった

どこまでも素敵な人だと思った

そう言えば、不思議に思っていた

長い入院をしても、花壇の花は決して枯れなかった

先生だろうと思っていたけど、違っていた

この子だったのだ

「そうだったんだね
ありがとう」

久しぶりに笑った気がした
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