だれも知らない
「だからやめて下さいって言っ…」
「ちょっと、俺のお客さんに手だして貰っちゃ困りますよ~」
女の肩に置いていた男の手を掴み引き剥がして女の前に立つ。
「あ?………ッチ」
男は舌打ちをすると、その場から足早に去って行った。
「あ、ありがとうございました…。」
男の姿が見えなくなると、
後ろからまた透き通るような綺麗な声がしてようやく振り返る。
「どういたしまして。」
とびきりの営業スマイルで彼女の顔を見ると、
よほど怖かったのだろうか。
目には薄らと涙を浮かべていた。
初めて近くで見た彼女は遠くで見るよりずっと小柄で、
綺麗な顔立ちをしていた。
「キミ、たまにここ通るよね?」
「え?」
「俺、あの店で働いてるんだ。」
そう言って、今さっき出てきた"Club Shine"を指さすと
彼女も指さす先へ顔を向けた。
「そうなんだ。」
「たまにこうしてお客さんの見送りで外に出るんだけど
キミを見かけた事が何度かある。キミもここら辺で働いてるの?」
その問いかけに彼女はピクッと身体を反応させた。