ある暇な日
乗り換えがめんどくさかったので明治神宮前で降りて、そこから歩くことにした。平日の午前中は原宿もそれほど人がいなくちょっと得した気分だった。雪はいつのまにかやんでしまっていて、少し日がさしてきた。僕は、原宿にもスーツを着たサラリーマンがいるんだなーと思いながら、知り合いの店に向かって渋谷方面に歩いていた。その知り合いというのは、友達の友達で何回か飲んだことがあるがあだ名しか知らないと言ったまさに知り合いなのだが、顔は強面でB-BOYみたいな格好(本人はかたくなに否定しているが)をしているのに、売ってるものはかわいい系で女性誌にもたまに載ってしまう雑貨屋兼セレクトショップの店長で、僕はその店も店長のマツ君も個人的に好きで、たまにこのへん来る時はついつい寄ってしまう。店の通りの前の角を曲がると、マツくんが店の前で一服していた。「マツくん」と僕が声をかけると「おお、シオくん」とにこにこしながら近づいてきたので、「そっちいくからそこいて」と煙草に火を点けながら言った。「今から店開けんの?」「いや、今店開けたとこ、どーしたの?朝っぱらから」「いや、暇だからぶらぶらしてるだけ」「はーん、じゃあちょっちのぞいてく?」「そーする」煙草をもみ消して、店ん中に入っていくと、ハードボイルドな内装のところどころにラブリーな小物が置いてあって、それがまさしくミスマッチしていた。洋服のコーナーに行くと、服といってもTシャツしかないが、ファミコンのMOTHERのTシャツがあった。バックの下の方にMOTHERとかいてあるシンプルなやつだ。生地もgoodwearでしっかりしてる。「まつくん、これゲームのMOTHER?、コラボったの?」「あー、それ、そうそうコラボった。なかなかいいっしょ?俺ん中でスマッシュヒットだね、けっこうがんばったし。」「一枚ちょうだい。」「いや、買ってけよ。」「やっぱ。」「うん、4500円、レアだよ、50枚しか作ってないし。」「まじすか~、・・・じゃあ買うわ。」「まいど。」こうして僕はいつものように、そんな余裕もないのに買う予定のないものを、しかも季節感も無く、買ってしまった。そして、なにしろ暇なのでマツくんとだらだらとサッカーの話や、共通の友達の話を一通りしゃべり、お客さんが来たので「ほんじゃまた」と言って、店を出た。