麗雪神話~麗雪の夜の出会い~
ディセルは、マントを抱いて泣きじゃくるセレイアを抱き寄せようとして、できなかった。

そうしていいのはヴァルクスだけのような気がした。

だから彼女のそばに膝をついたまま、中途半端な形で手を泳がせていた。

「約束、したのよ。約束、したのに…。
愛してる、愛しているわヴァルクス…なのに私は、私は、彼を、殺した…!!」

しゃくりあげながら、セレイアは語る。

「許されない、罪を…犯したのよ…
忘れたかった、信じたくなかった、彼が死んだなんて、もういないなんて…だから私は、私は…!」

彼女は忘れたのだ。

自らの心を守るため。

全て忘れて…自分に言い聞かせ続けたのだろう。

ヴァルクスは遠征に行っているだけ、待っていれば必ず帰ってくる、と…。

けれど自分で自分をだまし切れずに、神木に幾度となく切なく祈っていたのだろう。

どうか彼を、返してと――。

ディセルはあまりにも辛い彼女の過去に、もらい泣きを禁じ得なかった。

無論、すぐにぬぐった。

彼女の心の痛みを、わかってやれるはずがないから。

そんな自分が泣いても、あまりにもおこがましいからだ。

けれど――

「もういいんだよ、セレイア。
夢にしなくていい。
嘘にしなくていい。
君にはちゃんと力があるから。
現実と向き合う力があるから。
君は…希望だから。
だから今は思いっきり泣くんだ。
俺が…そばにいるから」

囁いて、彼女が負った心の傷を、いつか自分が癒して見せると、ディセルは心に誓った。

「ディセル…うわあぁぁぁぁんっ」
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