麗雪神話~麗雪の夜の出会い~
最初の霧と遭遇したのは、その少し後だった。

漂い始めた紫色の霞に気づいた二人は、ゴーグルを身に着け、身構える。

「霧よ…形となれ!」

ディセルが腕をかざして念じると、霧は以前と同じように黒い虫の姿になった。

ぶんぶんと羽を鳴らす巨大バチ。

しかし大きさで言えば以前倒した甲虫よりかなり小さい。

が、その分攻撃は当てづらいだろう。

「セレイア、気を付けて!」

セレイアは「任せといて!」と腕をまくる。

しばらく何もせず、迫り来るハチの動きを読んでいたセレイアは、不意に槍を突きあげた。

攻防らしいものもなく、勝負はあっさりと決着がついた。

無論、セレイアの勝ちである。

正確無比な槍の一撃によって。

セレイアの槍技の見事さに、ディセルは感嘆しっぱなしだ。

槍で串刺しにした途端、ハチは霧散し、消えた。

そしてディセルの中に、いくつか知らない顔の記憶がよみがえった。

重要そうな記憶ではないが、ちゃんと物事が進んでいることが実感できた。

その日はそのあと、数回普通の霧と遭遇し、その都度霧虫を倒すことで断片的な記憶を取り戻すことができた。
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