麗雪神話~麗雪の夜の出会い~
「ヴァルクスの仇、逃がしてなるものですか…!!」

セレイアは槍を引き抜くと、無我夢中で甲虫を追いかけ走りはじめた。

「セレイア! 待って、一緒に――」

ディセルの声も今のセレイアには聞こえなかった。

あっというまに茂みに消えたセレイアに、ディセルは内心焦っていた。

うまくできすぎている気がしたのだ。

まるでセレイアが敵討ちに来たと知っていて、何者かが甲虫たちにわざと逃げさせているような…――。

吟遊詩人の不敵な微笑みが脳裏に浮かび、ディセルははっとした。

まさか、彼が…?

「プミラ、セレイアを捜そう! 一人にしちゃだめだ」

プミラも頷く。

セレイアとはぐれてしまった。

何者かがこれを計算してやっているのだとしたら、セレイアが危ない。

ディセルはセレイアが消えた方角へ、急いで駆け出すのだった。
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