麗雪神話~麗雪の夜の出会い~
(不覚だわ…!)

自分が情けなくて、再び涙が溢れてきた。

ヴァルクスの仇を目の前にしているのに、この体たらく。

セレイアが座り込んでいると、まるでそれを待っていたかのように、四方八方から残りの甲虫たちが集まってきた。

そして、一斉に粘液を飛ばしてくる!

避けられない!!

セレイアが思わず目を閉じた時だった。

頬を強い冷気がなぶった。

そして当然予想された痛みは、いつまでたっても訪れなかった。

「セレイア! 大丈夫!?」

耳を打つ低く通る美声は、すっかり聞きなれたもの。

セレイアがおそるおそる目を開けると、目の前に氷の盾のようなものが見えた。

それに、すべての粘液が突き立っている。

ディセルだ。ディセルが助けてくれたのだ。

「ディセル、ありがと…」

「泣いていたの?」

ディセルはセレイアの涙を見てひどく動揺したようだ。

ディセルの優しさがそうさせるのだろう。

そう思ったら、その優しさがすごく沁みた。

違う新たな涙が溢れそうになるのを、こらえる。

大好きなのだと思った。

人の優しさ。人のあたたかさ。

人が、大好きだから。

守りたいから。

―泣いてばかりは、いられない。

セレイアは涙をぬぐい、笑って見せた。
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