麗雪神話~麗雪の夜の出会い~
放たれた槍は、甲虫の体を素通りしなかった。

確かな重量感のあるドスッという鈍い音と共に、甲虫の体に深々と突き刺さった。

―ギュイイイイイ!!

甲虫が不気味な悲鳴を上げ、のたうつ。

そして、巨大な体がもとの大きさに戻り……

ふうわりと霧散した。

隣でディセルが頭をおさえて目を見開いている。

きっと今まさに記憶の一部が戻ってきているのだ。

カラン、と大地に落ちた槍。

静寂が森に戻ってくる。

セレイアはその場にへたりこんだ。



…勝った、のだ。



我知らずつぶやきが漏れた。

「仇、とったよ…ヴァルクス…」



今更のように、涙がこぼれて止まらなくなった。

仇を取ったことが、逆に彼を喪ったことを意識させたのかも知れない。

顔を覆って泣き出したセレイアのそばで、ディセルはいまだに虚空を見つめ、目を見開いていた。

ぼそりとこぼれたつぶやきを、セレイアが耳にすることは無かった。



「俺は………
精霊じゃ、ない…。
俺の、正体は……――――――」



そんな二人を森の影から見つめる、二つの瞳があった。

「みつけた……」

にやりと笑みを浮かべた何者かがつぶやいた一言を、二人は知らない。
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