麗雪神話~麗雪の夜の出会い~
終章 旅立ちの抱擁

ディセルはマントを羽織り、ずっしりと重い鞄を背負って鏡の前に立った。

銀色の髪の旅人が鏡の中からじっと自分を見つめ返している。

彼の表情は切なげで、寂しげで、今にも泣きだしそうだ。

それでも今日、ディセルは一人旅立つ。

お世話になったセレイアにも、何も告げぬままに。

名残惜しげに見渡せば、いつのまにかすっかり馴染んでいたディセルのための部屋がある。

今日は使用人たちに任せずに、とびきりきれいに自分でベッドを整えた。掃除もした。それがせめてもの、お礼の気持ちのつもりだった。

「…ありがとう」

誰にともなく小さく告げて、ディセルは部屋を後にした。

時刻はまだ夜も明けきらぬ早朝。

東の空が明るくなりはじめる、暁の頃合いだ。

使用人たちに出会わないようこっそりと歩き、玄関口から外へ出た。

ぴりっと肌を刺す冷気。

雪がぱらぱらと降っている。

ディセルは街への道ではなく、横道へ足を向けた。
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