麗雪神話~麗雪の夜の出会い~
ディセルが絶句していると、セレイアがふわりとほほ笑んでいった。

「旅に出るのでしょう? ディセル。――いいえ、雪の神、スノーティアス様」

「!! どうしてそれをっ!」

ディセルがついにセレイアに伝えられなかった自分の正体。

それを、セレイアは知っていたのと言うのか。

毒の霧の甲虫を倒した時に、彼の中に蘇ったのは、今までにないほどの記憶の波だった。

天上界と呼ばれる美しい場所で、彼は人間界からの祈りの声を聞いていた。

人々は彼をこう呼んだ。

雪の神、スノーティアス様、と。

その自分がなぜ今こうして地上にいるのか、その手がかりとなる記憶はいまだに一切蘇ってはいない。だが霧の虫をこれからも倒していくならば、いずれ蘇るであろう。

自分が精霊などではなく、神そのものであるならば、すぐにでも天上界に帰らねばならないと強く思った。

しかし帰り方がわからない。

その記憶を取り戻すならば、より強力な霧を追って旅立たねばならない、と思った。

危険な旅になる。

けれど、いかねばならないのだと。

「さ、ぐずぐずしてないで、行きましょ」
< 144 / 149 >

この作品をシェア

pagetop