麗雪神話~麗雪の夜の出会い~
―祝福の聖水を授け、共に祈り、懺悔を聞き、浄化を行う。

流れるような所作ですべてを行うセレイアの横顔を、ディセルは飽きずにみつめていた。

その笑顔には一点の曇りもない。溌剌とした元気な印象が消えた分だけ、顔の造作や立ち居振る舞いの美しさが際立つ。

たおやかな至高の花といった風情だ。

男性も女性も、彼女への憧れの視線を送っているのがわかる。

そうやって仕事に励むセレイアを二刻ほども観察した頃だろうか。

突然の闖入者により、あたりが騒がしくなったのは。

この静謐な場には不似合いなおたけびのような声をあげて、十数人の男たちが聖堂に乱入してきた。

彼らは皆手に抜身の剣を握っている。

どうみても賊だ。

むろん、護衛の兵が戦っているが、賊の数が多すぎて、侵入を許してしまったようだ。

こんな真昼間から、とは思うが、それには仕方ない事情がある。

夜の警備が厳しすぎるためと、昼間の警備は静謐な空気を妨げないようにするために最小限に抑えているためだ。賊たちは自然昼間を狙うようになっていた。

「命が惜しけりゃ“聖杯”をよこせ!!」

聖杯とは、祝福に使う聖水を入れておく聖なる器で、希少価値の高い宝石が散りばめられている。売れば家一軒が建つだろう。

人々が剣を恐れて逃げ散り、巫女や神官たちも浮き足立っている中で、一人の神官が賊の前に立ちはだかった。

「聖杯は渡しません!!」

祭壇に安置された聖杯を守るように両手を広げた神官は―なんとあのクレメントであった。

「なんだあお前! 死にたいようだなぁ」

賊がクレメントを狙い、その手の剣を高々と振り上げる。

「危ない!」
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