麗雪神話~麗雪の夜の出会い~
「どこか痛いところとか苦しいところとか、ない!? 寒いとか暑いとかは!? とりあえず何か、水でも飲む?」
矢継ぎ早の少女の質問に、彼はよほど目を丸くしていたに違いない。
少女は「あはは、いきなりまくしたてちゃってごめんなさい、驚いたわよね」と呟くと、枕元のチェストに置いてあった水差しを陶器のコップに注ぎ、「はい」と手渡してくれた。
手渡されたそれを、彼はしばらくまじまじとみつめた。
無色透明。匂いもない。“水”―――だろう。
上体を起こし、彼がおずおずと一口それを口に含むと、さわやかな冷たさが心地よかった。知らぬ間に喉が渇いていたのだろう、彼は一気に陶器の中身を飲み干した。
「もっと飲む?」
「いや…大丈夫だ。ありがとう」
少女が突然ぱあっと表情を輝かせたので何かと思ったが、どうやら自分がはじめて“喋った”ことが嬉しかったようだ。
確かに自分も、自分がこのようにして声を出すことができていることに少し驚いている。喉が震え、空気を震わし、低く響く耳に優しい低音の声。
これが自分の声か。
なぜか喜びが湧き上がってきて、そんな自分にとまどう。
「私はセレイア。この“神聖王国トリステア”の“王都メルティア”で、“姫巫女”をやっているわ。あなたは昨日の夜、神木の下で倒れていたのよ」
彼はかすかに眉をひそめた。
“とりすてあ”。“めるてぃあ”。“ひめみこ”。聞いたことのない単語だ。
そう思った時、彼は重大なことに気が付いた。
単語がわからないどころか、何もわからないことに。
矢継ぎ早の少女の質問に、彼はよほど目を丸くしていたに違いない。
少女は「あはは、いきなりまくしたてちゃってごめんなさい、驚いたわよね」と呟くと、枕元のチェストに置いてあった水差しを陶器のコップに注ぎ、「はい」と手渡してくれた。
手渡されたそれを、彼はしばらくまじまじとみつめた。
無色透明。匂いもない。“水”―――だろう。
上体を起こし、彼がおずおずと一口それを口に含むと、さわやかな冷たさが心地よかった。知らぬ間に喉が渇いていたのだろう、彼は一気に陶器の中身を飲み干した。
「もっと飲む?」
「いや…大丈夫だ。ありがとう」
少女が突然ぱあっと表情を輝かせたので何かと思ったが、どうやら自分がはじめて“喋った”ことが嬉しかったようだ。
確かに自分も、自分がこのようにして声を出すことができていることに少し驚いている。喉が震え、空気を震わし、低く響く耳に優しい低音の声。
これが自分の声か。
なぜか喜びが湧き上がってきて、そんな自分にとまどう。
「私はセレイア。この“神聖王国トリステア”の“王都メルティア”で、“姫巫女”をやっているわ。あなたは昨日の夜、神木の下で倒れていたのよ」
彼はかすかに眉をひそめた。
“とりすてあ”。“めるてぃあ”。“ひめみこ”。聞いたことのない単語だ。
そう思った時、彼は重大なことに気が付いた。
単語がわからないどころか、何もわからないことに。