麗雪神話~麗雪の夜の出会い~

ディセルは謁見室に向かって神殿の廊下を歩きながら、ここ一週間あまりで集めたヴァルクス王子の情報を頭の中で整理していた。

ディセルの容姿は人目に付きやすいので、布を巻いて半分顔を隠しながら街をめぐり、酒場やカフェ、大通りなどで手当たり次第にヴァルクスの情報を集めたのだ。


「黒髪黒瞳の男前さ。髪は短くて少しあちこちはねる癖があるみたいだ。癖をつけているのかも知れねぇな」

「よく城下にもお忍びで遊びに来られていたよ。姫巫女様と連れだってな」

「仲睦まじい様子だった。美男美女で、いやはや羨ましい」

「剣の腕もなかなかのものと聞いたが、プミールに騎乗しての槍術に何より長けていらっしゃる。戦場では先陣を切るのさ。我らが王子様は頼もしい」

「頭脳明晰で、口もうまい。政治のプロである大臣たちを弁論で負かしてしまうほどさ」

そして皆口をそろえて残念そうに言う。

「今は西方の小国アイリアとの戦で遠征に出ていて、もう一年以上も国に帰ってきていないんだ。早いところ帰ってきてほしいね」

容姿端麗で武術にも長け、国民からも慕われている。

調べれば調べる程、ヴァルクス王子は非の打ちどころのない相手、といった印象だった。

それでも身近に接する者達にしかわからぬ何かがあるかも知れないと、ディセルは大巫女ハルキュオネに面会を申し込んだ。何度か多忙を理由に断られたのち、それでもしつこつ面会を申し込む自分をうっとうしいと思ったのか否か、やっとハルキュオネは面会の約束をしてくれた。

それが今日である。
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