麗雪神話~麗雪の夜の出会い~
「実は、ヴァルクス王太子殿下について、何かご存知なら、なんでもいいので教えていただきたいのです」

「それは…。他の者に尋ねてまわればよろしいでしょうに」

「普段からつきあいのある方にしかわからないこともあると思います。俺はそれが知りたいんです」

「無理ですわ。機密に関わりますゆえ」

「お願いします。
セレイアが幸せになれるように、どんな人物か見極めたいんです!」

セレイアが幸せに、のあたりで、ハルキュオネはなぜか一瞬辛そうな表情をした。

それは内側から滲み出た素の表情だという気がした。

けれどすぐにそれは大巫女と言う仮面に隠されてしまった。

ふう、と息をついて、ハルキュオネは答えた。

「…わかりました。さしつかえないことだけ、お教えしましょう」

「ありがとうございます!」

今はそれだけで十分だ。

「街の者たちは決してそうは言わなかったでしょうけど、
親しい者達の間では、彼は横柄でわがままな一面も見せます。
それは自分の意思を押し通す強さにもなっているようですが。
セレイアは彼のそんな気質ともうまくかみ合うようです」

ハルキュオネは少し遠い目になって、優しい口調で語る。

―ハルキュオネはセレイアとヴァルクスを愛している…。

それがはっきりとディセルにはわかった。

「ヴァルクス王太子殿下は今、この国の未来に大きな夢を描いて働いていらっしゃいます。
彼はまさしく王太子にふさわしいお方。
詳しい国情に関しては教えてさしあげられませぬが、今、小国アイリアへの遠征へ出ておられるのも、この国を守るため、未来を守るためなのです。
セレイアの夫君となるには、できすぎているくらいのお人だと、私は思いますわ」

「そうですか…」

結局それ以上は、ハルキュオネは何も教えてくれなかった。
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