麗雪神話~麗雪の夜の出会い~
ディセルが近づくと、衛兵たちは手にした槍を交差させて行く手を塞いだ。

「お約束はとりつけておいででしょうか。なければここはお通しできません」

当然、約束などとりつけていない。

ディセルは小さく息をついた。

「…仕方ない。みんなの前では使うなって言われていたけど」

ディセルは不意に手をかざすと、空に向かって念じた。

“来たれ、吹雪よ―”

すると急にあたりを突風が襲い、すぐ目の前も見えないほどの猛吹雪となった。

「うわあああ」

「な、なんだ! なんでいきなり!」

「おい、大丈夫か!」

慌てる衛兵たちの横を、ディセルはすり抜け、全速力で駆ける。

長い門を抜け、豪奢な中庭をひた走った。

(とりあえず、王宮潜入成功っと!)

しかしまだ気は抜けない。

今の自分は供も案内役も連れず、明らかに不審者だ。

なるべく手荒な真似はしたくないと思っていたが…非常事態だ、致し方ないか。

「おい、貴様、怪しいな、こんなところで何を―」

「ごめん!!」

最初にディセルに気づいて近寄ってきた見回りの兵の頭に、ディセルは硬い氷の塊をクラッシュさせた。

あっというまに気絶した兵を廊下の影に連れ込み、衣服に手をかける。

少々サイズは違うが、ゆったりとしたつくりなので、なんとかなるだろう。

ディセルは手際よく兵士に扮すると、何食わぬ顔で王宮内を歩き始めた。

まずは王子宮のありかを調べなければならない。

王宮内の地図は当然軍事機密、図書館では手に入れられなかったのだ。

廊下の向こうからしずしずと歩いてくる女官をみつけて声をかける。

「失礼、王子宮はどちらでしょうか。方向音痴なもので…こう広いと、迷ってしまって」

ディセルの容貌に気づいた女官はぱっと頬を染めて答える。

「あちらの廊下のつきあたりを、外に出てすぐですわ」

「ありがとう」

セレイアとヴァルクスのもとへ、一歩一歩近づいていく。

そこには緊張と…破滅の予感が伴う。

(セレイア…今行くから)

行ってどうするかは、もうとうに決心していた。
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