麗雪神話~麗雪の夜の出会い~
「ここに…あなたは空から降ってきたのよ」

彼はセレイアと並んで神木を見上げてみた。

蒼穹に続く白い幹。その太さは人間が何人腕を広げれば一周できるだろうか。

神木と呼ばれるだけはある、美しく力強い樹だ。

しかし…。

当然のことながら空から降ってきた時の記憶などない。

そして今のところ、何か思い出せそうな兆しもなかった。

「どう? 何か思い出さない?」

「何も…」

「そう…。それじゃあ」

セレイアは彼を振り仰ぎ、にっこりと笑った。

「新しい人生を始めちゃいましょうか!」

彼は面食らった。

「え…新しい、人生…?」

「そう! 何も覚えていないことも、悪いことばかりじゃないわ。記憶がないってことは、今まで背負って来た枷も、今はもうないんだもの。過去にとらわれずに生きられる…チャンスだわ」

「…チャンス」

雪を背景にした彼女の前向きな笑顔が美しくて、彼はつられて微笑んだ。
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