麗雪神話~麗雪の夜の出会い~
その部屋は王太子にふさわしい豪奢さと、部屋の主のセンスをうかがわせるおしゃれさが合わさり、実にきれいで居心地のよさそうな部屋だった。

部屋の面積は広く、どこもかしこも丁寧に掃除が行き届いている。

しかし…恐ろしいほどに生活感がないのもまた事実だった。

風ではためく水色のカーテンの下、部屋の隅にうずくまるセレイアを見つけた時、ディセルの胸はひどく痛んだ。

セレイアの表情が、あまりにもうつろだったからだ。

何の感情もうつさない、人形のような目。

こんなセレイアは、見ていられないと思った。

「セレイア」

呼びかけると同時に、彼女が大事そうに抱いているものに気づく。

それは何か大きな布のようなもの。

つやつやと輝くその布は―――

おそらくマントだ。

「ディ…セル? …どうしてここに?」

どこかぼーっと夢見るような口調で、セレイアが返事をする。

うつろな瞳はそのまま。何の気力もわかないような鈍い動きで、ディセルを見つめる。
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