麗雪神話~麗雪の夜の出会い~
この国を守るために。

恩返しをするために。

新しい屋敷と神殿で姫巫女としての生活を始めた五歳のセレイアに、いちはやく持ち上がったのが王太子との婚約話であった。

婚約…などと言われてもまだ五歳、ぴんとこなかった。

そんなことより、母代りとなって同じ屋敷で生活してくれている大巫女ハルキュオネがまだまだ恋しかった。

婚約披露宴は、セレイアが生まれて初めて体験する大きな宴だった。人が多く、そのせいでハルキュオネの姿も探し出せず、セレイアは完全に呑まれてしまった。

怖い…と思った。

笑いさざめく大人たち、これでもかと着飾った貴族たちは、質素な孤児院で育ったセレイアにとってはあまりにも見慣れぬものだったのだ。

皆の目を盗み、宴を抜け出して、セレイアはとにかくこの城から出ようと思った。

しかし城壁は高く、正規の出入り口には衛兵がいる。

やはりこの壁を越えるしかなさそうだが、どうしたものか…。

セレイアがぴょんぴょんと飛び跳ねて城壁にへばりつこうと悪戦苦闘していると、不意に後ろから声がかかった。
< 86 / 149 >

この作品をシェア

pagetop