星の降る街
『冷たっ!』

足先を少しだけ海水につけてみると余りの冷たさに即座に退いてしまう。冷たい足先に春はまだまだ先なんだと実感する。絵理香はそのまま海岸を歩いてみることにした。

今はまだ春の訪れも感じない頃、当たり前のように閑散としていて、波の音が余計に際立って耳に入る。潮風で顔にまとわりつく髪の毛を耳に掛けながら、ふと堤防を見上げると一人の男の人が真っ直ぐに海を見つめていたーー。


トクン…。
絵理香の胸の音が一瞬聴こえてくるような錯覚を起こす。絵理香は声をかける訳でもなく、時が止まったようにその男の人を見つめる。

『っ⁉︎』

そんなに凝視をしていたら流石に相手も気づいたのか、彼は海に向けていた視線を絵理香に移す。絵理香はバツが悪くなり咄嗟に会釈をして誤魔化す。

相手はさほど気にする訳でもなく、絵理香の会釈に軽く微笑んで同じように応えると身を翻し、何処かへと歩いて行ってしまった。


『行っちゃった…。』

絵理香はそんな彼の姿を見送ると残念そうに呟いた。

だがすぐにそんな自分に戸惑い首を傾げる。

(何がそんなに残念なんだろう…きっと、誰もいない海岸で人を見つけたから嬉しかったのかな。)

絵理香は自分のよく解らない感情に適当な理由を付けて納得すると、冷えてきた身体を庇うように急ぎ足で「みさき」へと戻って行ったーー。
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