星の降る街
『…ここ?』

あれから更に15分程、一人ハァハァと息を切らしながら坂を登っていくと、やっと数軒の住宅が見えてきた。その中にある一軒の家の前で絵理香は足を停めた。

「民宿 みさき」

宿泊施設というよりは普通の民家のような雰囲気を漂わせている。絵理香は一度地面に置いた荷物を再び持つと建物の入口に向けて歩き出した。


ガラガラ〜
『こんにちは。』

シーン…
『えっと、すいませーん!』

シーン……
『…すぅー、こんっ⁉︎「はいはーい?」ごほっごほっ』

思いっきり息を吸い込んで、叫ぼうとしたところでいきなり人が現れ、むせてしまった。

『あらあら、大丈夫かしら?』

声の主は心配そうに絵理香の背中を摩りながら様子を伺う。

『す、すいません!ごほ…ごっほ。えっと予約の市川です。』

まだむせ返りながらも何とか名前を告げる。

『市川さん?あぁ!はいはい。お待ちしてましたよ。』

絵理香の名前を聞くと、納得がいったように頷きながら絵理香の後方に控えるスーツケースたちに視線をおくる。

『確かお一人だったわよね?…すごい荷物。重かったでしょ!言ってくれたら駅まで迎えに行ったのに…。』

『大変だったわね。』と苦労を労われると絵理香の先ほどまでの苛立ちも不思議なくらい消化されていった。
< 3 / 18 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop