星の降る街
『…へんな奴。』

誰もいなくなったドアの方を見てポツリと呟くと持っていた鞄を二人用くらいのソファの上に置き、すぐ横のカーテンを開ける。

『きれい…。』

窓の外は一面に海が広がっていて、太陽の光が反射してキラキラと光っている。

絵理香はそのまま窓を開けて部屋に外の冷たい空気を入れ込む。目を閉じると、鼻先にほのかに磯の香りを感じた。



私、市川絵理香は30歳を迎えた今日という日に今までの自分を置き去りにしてこの街にやってきた。

今までの自分は、そこそこ名のある企業で秘書の仕事をしていて多忙ではあるものの、時間を見つけては自分磨きをしたり、女友だちと合コンに参加したり、その時々にいた彼氏と呼ばれる人と過ごしたりとそれなりに充実した日々を送っていると思っていた。


今から一カ月前のこと…。
2年ほど付き合っていた同じ会社の営業のエース、田城涼太に言われた一言が頭にこびり付いて離れない。

『おまえさー見た目は完璧だけど、中身からっぽだな。』

『は?何それ…。』

『そのまんまだよ。人形と一緒にいるみたいだわ、つまんねぇ女。』

『人形…。』

涼太は飛びっきりのダメージを与えて、その一週間後に5つ年下の絵理香の後輩と婚約をした。
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