星の降る街
『もう良いじゃない。』

絵理香は決意すると手を洗う為に蛇口に手をかける。今までの自分を洗い流すかのように丁寧に洗うとハンカチで拭き取り、デスクへと戻って行ったーー。


思い立ったら即行動!が絵理香のポリシーだ。

翌日、「退職願」を上司に提出すると、目を見開いて驚かれる。

『理由を聞いても良いかしら?』

銀縁のフレームをあげながら絵理香の顔を真っ直ぐ見つめるのは秘書課を仕切る
葉山百合子。小さな嘘一つ足りとも見逃さないような視線に絵理香は俯き答える。

『…自分が分からなくなったんです。少し休ませてあげたくなりました。』

『…そう、分かったわ。』

百合子は淡々とした表情で絵理香の退職願を受理した。絵理香は深々と一礼すると、簡単に引き継ぎをして有給消化の為に早々に休みに入ったーー。



『さてと、これからどうしようかな。』

絵理香は穏やかに流れる波の動きを眺めながらポツリと呟く。

何の目的もなくこの街にやってきたのだ。たまたま処分し忘れていた夏の情報誌にこの岬が浜の記事が掲載されていて、何となく目についた地名と同じ「民宿みさき」。気づいたら予約の連絡を入れていた。

電話の向こうの弥生さんの柔らかい声質に、どことなく安心感を覚え、今日という日を楽しみにしてきたのだ。
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