WHY
~はじまりは…~
梅雨がはじまろうとする、午前10時、新幹線の改札前に立っていた。ここまでのたどり着いた経緯は覚えていない。タクシーの中はひどくクーラーで寒く、鳥肌が一つ一つ立つまでだった。
 どこに向かうんだろう…そんな不安が頭をよぎる。駆け巡る。”あいつ”は無造作にチケットを渡し、ついてこんといわんばかりに、手首を握り、引っ張る。改札の人は無愛想にスタンプを押す。表情はない。ないくはないが、そう見える。何もかも無機質な物体に見える。時々こんな現象だ。なぜだか、分からないし、考えたくもない。
考えたら、更に深まる一方だから。

 改札を抜けたら、左手に上る階段がある、そこからが私の今日のはじまり。
何をするのか、何が起きるのか分からないが、決して楽しくない事は分かっている。苦痛、苦悩…そんな言葉だけが頭をよぎる。
 雨がひどくなり、ぬれているアスファルトだけが、輝いて見えた事が唯一の救いかもしれない。人が通るたび足跡のつく水面だけが、目に入る。そんな空間。

 私はいま、何をして、何をしたいんだろう。何でここに居るんだろう。それすら分からない現実をどう捉えればいいんだろう。自分に投げかける言葉も痛いほど、考えるのも嫌になるほどだ。理由はわからない。

 はじまりは、そう去年の今頃…思い出したくても思い出される、皮膚が呼吸できないくらいの蒸し暑い6月。

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