待ち人
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5時間待ってもあいつは現れなかった。5時間も待つ俺もどうにかしていると思うが、あいつが約束の時間に現れないってことの方がよっぽど、どうにかしている。2回だけあいつが遅れてきたことがあった。母親が自殺した時と娘が生まれた時だ。娘の名前はまなみ。母親の名前は知らない。どちらの時も遅れはしたがちゃんと待ち合わせ場所に現れた。あいつは遅れた理由を話さない。俺も遅れた理由を聞かない。あとから、共通の友達にそんなことがあったことを聞かされる。大体、俺が遅れて現れる。何回かはいかなかったこともある。あいつは携帯どころか電話を持っていない。もっぱら連絡は手紙だ。それはあいつから一方的に送られてくる。一度なぜ電話を持たないのか聞いてみたことがある。ずいぶん昔の事だが。あいつは「いらない」と答えた。あまり電話が好きじゃないと言う。俺もあまり電話は好きじゃないが、携帯も家の電話も持っている。俺の場合、仕事で使うからだ。「仕事には使わないのか?」と聞いたところ、「使わない」と言う。ほぼ、手紙でこと足りるらしい。どんな仕事をしているのか聞いたが、教えてくれなかった。俺は5時間待ってからそこから出た。俺達はたまに会って話をする日もあったし、テレビゲームをやることもあったし、酒を飲む日もあった。一回だけ泊まりがけでスノボに行ったこともあった。だが、特に思い出すことはない。そもそも、友達の友達から出会ってから、特にそれ以上仲良くなることはなかった。どちらもあまり自分のことは話さないし、聞きもしない。専ら話すのは、サッカーの話とそれぞれがどこかで仕入れてきたちょっとした話だ。その一つを今ちょうど思い出した。それは、南米のある国の伝説の話だ。