まっしろな遺書
 2015年5月10日

 昨日の十三は、緊張の一日だった。

「えっと、改めて紹介するね。
 こちらが、私の婚約者の小山 学さん。
 で、こちらが父の……」

「山本 昭三です」

 山本は、軽くと頭を下げた。

「よ、よろしくおねがいします」

「こちらこそだよ」

 山本は、ニッコリと笑う。

「そ、それで行き成りなんですが、結婚式は、10月に挙げようかと思っていまして……」

「そうか……」

「出来れば、お父様にも参加して頂けたらなと……」

「ああ。
 構わないよ」

 山本は、寂しそうな表情を見せながらもうなずいた。

「あ、ありがとうございます」

「ただし、条件がある」

「な、なんでしょうか?」

 空気が一気に重くなる。

「学君、君は、この夢叶が健康な時も病の時も富める時も貧しい時も……
 良い時も悪い時も愛し合い敬いなぐさめ助けて変わることなく愛することを誓いますか?」

「誓います」

「お父さん、それ神父さんが言うセリフじゃないの!」

 夢叶が、笑いながら言う。

「いいじゃないか。
 お父さん、このセリフを一度言って見たかったんだ」

「そうなんだ……」

「ああ」

「お父さん、お母さん。
 今まで育ててくれてありがとうございました」

 夢叶が、頭を下げる。

「夢叶……」

 山本が、目に涙を浮かべる。

「学君、夢叶をよろしく頼みます!」

 山本は、学の手を握り締め、何度も何度もお辞儀した。

 十三は思った。
 自分が、いなくても上手く行けたみたいだ……と
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