まっしろな遺書
 2015年5月12日


 今日も曇天。
 美穂も子供たちも十三の部屋にはいなかった。
 十三は内心安心していた。
 なぜなら愛とどんな顔をして会えばいいかわかんないからだ。
 恐らくまだ何をしているかは、理解できない歳だろうが……
 気まずかった。

 部屋をノックする音が響く。

「はい」

「血圧を計りに来ました」

 千代田が、そう言って部屋に入って来た。

「千代田さん、こんばんは」

「なんか、退屈そうね」

「病院なんて、退屈な世界ですよ」

「スピードラーニング貸そうか?」

「なんですかそれ?」

「知らない?
 『英語がどんどん好きになる!
  音楽を聴くように英語を聞き流すだけ!』
 が、キャッチフレーズのスピードラーニング知らない?」

「なんか聞いたことあるような……
 で、効果あったんですか?」

「私、重要なことに気付いたの」

「なんですか?」

「私、音楽聞かないのよ。
 だから、結局3日と持たなかったわ……」

「そうですか……」

「十三君も聴いてみない?」

「いや、いらないです……」

「そう、十三君英語が出来たら、今後役に立つと思ったんだけど……」

 千代田さんは、寂しそうに血圧を計ってくれた。

「130の80ね……
 血圧は、安定してるわね」

「ですね。
 薬の効果もあるんでしょうね」

「そうね。
 食事も栄養バランスが取れているし、いい調子よ」

「退院は、いつできますか?」

「それは、私には何とも言えないわ」

「そうですか……」

「ごめんね」

「今度、銘先生に聞いてみます」

「うん」

 千代田は、頷くと部屋を出た。

「はぁ、また暇になったな……」

 十三はため息を付いた。
< 107 / 186 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop