まっしろな遺書
 その日、美穂は仕事が忙しいらしく朝早くに病院を出た。
 時計の針が、9時を指す頃。
 小さな女の子が十三の部屋に訪れる。
 歩だ。

「おはよー
 遊びに来たよー」

 歩は元気いっぱいに返事した。

「おはよう。
 ってか、院内学級とかはないの?
 勉強をサボったら怒られるよ?」

「平気だよー
 まだ、授業の時間じゃないし」

「そうなのか?」

「うん!
 それよりもさっきの人って彼女?
 ものすごくきれいな人だったね」

「彼女なのかな……
 一緒に暮らして入るけど、たぶん彼氏彼女って関係じゃないかな」

「結婚しないの?」

 十三の胸にその言葉がぐさりと刺さる。

「しないよ」

「ふーん」

「大人には色いろあるんだよ」

「そっか。
 あ、そだそだ、お兄さん暇でしょ?
 今度、授業に遊びに来てよ」

「授業?」

「うん。
 お友達がいっぱいで楽しいよー」

「気が向いたらいくよ」

「絶対だよ?
 じゃ、私は授業に行くねー」

 歩は、そう言うと十三の部屋を出た。
 入れ替わるように看護師が入ってくる。

「もうすっかり仲良しね」

 看護師は、そう言いながら十三に点滴をうった。

「痛い……」

 十三が、思わず声が出る。

「どうして痛いかわかる?」

「貴方の腕が……」

 十三は、そこまで言いかけたとき、看護師の眉がピクリと動いた。
 だから、すぐに訂正した。

「生きているからです」

「はい。よろしい」

 看護師は、ニッコリと笑うと言葉を続けた。

「散歩にでも出てみたらどうかしら?」

「散歩?」

「少しは動かないと運動不足になっちゃうわよ」

 看護師は、そう言って病室を出た。

「散歩か……
 あとで行ってみよう」
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