まっしろな遺書
 2015年5月16日

 十三は、朝6時に起きて、調理室に向かった。
 何かを掴めそうな気がする。
 そんな気がしたから、横で眠る美穂を起こさないようにしてベッドを降りたのだ。

 すると先客がいた。
 いや主か……

 山本だ。

「十三君、早いね。
 おはよう」

「おはようございます」

 山本は、微笑む。

「十三君、頼みがあるんだ」

「なんですか?」

「私のたこ焼き作りのノウハウを完璧にマスターしてくれ」

「へ?」

「私は、もう長くないらしい」

「昨日の検査結果、よくなかったのですか?」

「元々よくは、なかったんだ……
 持って、半月らしい……」

「え?今、こんなに元気じゃないですか!」

「今はね……
 でも、だんだん弱っていくらしい」

「そんな……」

「だから、頼む。
 私のたこ焼きを完璧に覚えてくれ。
 そして、子供たちに笑顔を与えてやってくれ」

 今、十三に出来ること……
 それは……

「わかりました。
 山本さん以上のたこ焼きを覚えて見せます!」

「言ってくれるじゃないか……」

 山本が笑う。
 十三も笑う。

「じゃ、さっさと作っちゃいましょう」

 美穂が、そう言ってたこ焼き粉をボールに入れた。

「って、美穂!?
 いつのまに?」

「不倫してるんじゃないかと思って様子を見に来たのよ。
 でも、こういうことなら仕方がない。
 夫婦で、たこ焼き屋を開きましょう!」

 美穂が、笑う。

「いつから、夫婦になったの?」

「あれ?
 言ってなかった?婚姻届、もう出したわよ?
 ア・ナ・タ♪」

「ええー!」

「嘘だよ。
 早く作ろう」

 美穂は水をボールに入れた。

「そうだね、作ろう。
 時間が、勿体ない」

 山本が、そう言うと十三たちは、たこ焼き作りの勉強をした。
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