まっしろな遺書
 2015年5月17日


 十三は今日も朝6時に起きて、美穂とたこ焼きの特訓をしていた。

 山本は、時に厳しく。
 時に優しく。
 真剣にたこ焼き作りを伝授してくれた。

「レシピは、昨日まとめてきたよ」

 そう言ってファイルを十三に渡した。

「あ、ありがとうございます」

 ファイルには、たこ焼きの他、お好み焼き、焼きそばなどの作り方が書かれていた。

「この短期間にマスターできるかもしれないのは、たこ焼きだけだろう。
 でも、出来れば私の、お好み焼きや焼きそばの味も知って欲しい」

 そう言って、小さなお好み焼きと焼きそばを作ってくれた。

 美味しかった。

 言葉で表現することは出来ない。
 だけど、美味しかった。

「さぁ、たこ焼き作るぞ!
 今日は、強力な助っ人を呼んである」

 山本さんが、そう言うと調理室に歩たちと沢山の看護婦や他の患者が、入って来た。

「あ、お兄さん!」

 歩たちが、十三の方に近づいてくる。

「ど、どうしたんだ?」

「今日は、十三さんが、たこ焼きを作ってくれるって聞いてやってきました」

 充がそう言うと元太が、お腹を押さえて言った。

「朝飯食ってないんだー
 早く兄ちゃん、たこ焼き作ってくれよー」

「わ、わかった……」

「十三、頑張ろう!」

 美穂が、エールを送る。

「うん!」

 十三は、人前で作るのってこんなに緊張するとは思わなかった。
 だが、沢山作った。
 100パック以上は作った。

「おじさんのとは、違うけどお兄ちゃんのたこ焼きも美味しい……」

 愛が、嬉しそうに笑う。

「おじさんの足元にも及ばないけどね」

 隼人が、そう言ってたこ焼きを沢山頬張る。

  人に食べてもらうってこんなに嬉しいモノなんだな……
  俺は、この喜びを忘れないようにしよう。
 十三は、そう心の中で誓った。
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