まっしろな遺書
 2015年5月21日

 十三は今日も朝早く起きて、たこ焼きを作る。
 昨日の夕方、山本さんに指摘されたことを特に気をつけた。

 形が悪い。
 ソースの味が薄い。

 既存のソースを使えば、美味しいモノができるのだが、山本のソースは何かが違った。

 ウィスターソースとオイスターソースを混ぜケチャップを混ぜてはちみつも混ぜる。
 そして、少し煮込む。
 煮込む、煮込む、煮込む……

 そして、味を確かめる。

 美味しい。
 しかし、何かが足りない。

 鷹の爪を入れてみる。

 美味しい。
 しかし、少し辛い。

 早く作らなくちゃ、早く作らなくちゃ、早く作らなくちゃ。
 十三は、焦る。

 そんな時、調理室に夢叶が訪れる。

「十三さん、おはようございます」

「あ、夢叶さんおはようございます」

「父の我がままに付き合ってくれてありがとうございます」

「え?」

「さっき、学さんと一緒に父に結婚式の打ち合わせに行ったら、十三君の様子を見てこいと言われたので……」

「えっと、学さんは?」

「男同士の話があるそうです」

「そっか……」

「結婚式、式場に無理言って、早くやることになりました」

「そうですか……」

「9月26日です」

「そっか……」

「父からのお願い聞いてくれますか?」

「なんでしょう?」

「その結婚式で、十三さんのたこ焼きを披露したいそうです」

「ええ!」

「無理を承知でお願いします」

「俺は、構わないけど……
 味の保証は出来ないよ?」

「構いません」

「わかった。
 頑張ります」

 十三は、9月26日までに、ソースだけでも完成させることをひっそりと心のなかで誓った。
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