まっしろな遺書
 2015年5月28日


 本日は、快晴。
 昨日の元気が嘘のように山本の体調はよくない。
 ベッドに横になる山本さんの話を十三は聞いていた。

「昨日の結婚式、本当に楽しかった……」

「そうですね」

「もう思い残すことは無いよ」

「そんなこと言わないでくださいよ」

「十三君のたこ焼きも、本当に美味しかった」

「ありがとうございます」

「辛子を入れるなんて、よくわかったね……」

「小太郎に教わりました」

「そうか……
 あの子が……」

 山本は、目を細めて笑う。

「小太郎とは、仲が良かったんですか?」

「私の警察時代の後輩だよ」

「そうですか……」

「ああ……
 あの子が、私の一番たこ焼きを食べてくれたかな……」

「そうなんですか……」

「二次会も来たかったらしいのだが、仕事が入ってね……
 休むと言ったから一発喝を入れてやったよ。
 『刑事の仕事を舐めるな!』ってね……」

「まぁ、昔から何かを理由にサボりたがるヤツでしたからね……
 警察官になったことに俺たちは、驚きましたから……」

「あの子は立派な、警察官だよ」

「そうですね……
 俺なんて、みんな立派に働いている……
 その差にいつも俺は、落胆してます」

「落胆?」

「俺、ニートだから……」

「でも、立派に生きている。
 それだけで、十分だよ」

「お金も無いですし……」

「お金があれば幸せになれるかい?」

「それは、わかりません……
 でも、お金がないと入院費も……
 俺、個室だし……」

「美穂ちゃんが払ってくれるんじゃないのかい?」

「それも、結構気を使いまして……
 まるで、ヒモみたいじゃないですか……」

「今は、主夫も珍しくないだろう?」

「俺は、働きたいです……」

「そうかい……
 だったら、たこ焼き屋を開けばいい。
 私が教えた技術は、プロに通用する技だよ」

「そうですか?」

「それに十三君は、子供たちにも人気がある。
 子供に人気のあるたこ焼き屋に慣れるよ……」

 山本がそう言って笑った。
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