まっしろな遺書
 2015年5月29日

 山本の具合は、よくなかった。
 自分で食事する事も出来ない。

 一昨日までは、ある程度元気だった。

 しかし、今はもう……
 余命ひと月って言われて。

 十三は、命に対して考えさせられた……
 十三は、何するもなく山本さんの病室に向かった。

「十三君か……」

 山本が弱々しく笑う。

「……はい」

「さっきね、村雨君も来てくれたんだよ」

「小太郎が?」

「ああ……
 仕事サボって来たから、喝を入れてあげたよ」

「そうですか……」

 山本は、優しく笑う。

「あ、十三さん、いらっしゃったんですね……」

 恵子が、病室に入ってくる。

「あ、はい。
 お邪魔しています

「いつもありがとうね……」

「いえ……」

「私、飲み物買ってくるわね」

 恵子は、そう言って病室を出た。

「十三君。
 病気は、大丈夫なのかい?」

「はい……
 今のところ問題ないです」

「命は、大事にしなくちゃいけないよ」

「はい」

「私はね、生きたい。
 君も沢山つらい思いをしたんだろうけど……
 それでも、やっぱり生きたい命があるってことを知っていて欲しい。
 これから先、もっとつらいことが待ちうけているだろう。
 それでも、私は君には生きて欲しいと思う」

「生きていて良い事なんてあるのでしょうか?」

「十三君、そうじゃないんだよ」

「え?」

「生きていて良い事があるんじゃない。
 生きていることが良いことなんだよ。
 萌ちゃんもそうだっただろう?
 あの子も、相当生きたかったと思う」

 そう……
 自由も生きたかったんだろうな……
 十三はそう思い、あけられずにいるあの手紙のことを思い出した。

「大丈夫。
 俺はもう自殺しませんから……」

「なら、よかった。
 早くにこっちに来たら怒るからね」

 山本が笑う。
 十三は、苦笑いを返す事しか出来なかった。
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