まっしろな遺書
 2015年6月8日

 十三は。今日も早くに目を覚ます。
 そして、待合室に行くと充がいた。

「充君おはよう。
 今日も眠れなかったの?」

「十三さん。
 おはようございます。
 はい、ここ最近一睡もしていません……」

「そっか……」

 不安と恐怖。
 それが、充を襲っていた。

「脊髄の手術なのかい?」

「はい。
 遠い親戚の方の脊髄の細胞が僕のと適合して移植できることになりました」

「そっか……
 だったら、助かる可能性も高いじゃないのか?」

 充は、少し険しい顔をした後、髪の毛を取った。
 それは、全頭ウィッグだったのだ。

「僕の症状は、結構悪いんです。
 今は、薬でなんとか押さえてますが……
 効果が切れると辛いです……」

「そっか……
 でも、大丈夫、成功すると信じようよ」

「信じたいです……
 でも、それ以上に怖いんです。
 脊髄移植って、相応のリスクがあるんです。
 失敗の可能性もあるんです」

「プラス思考でいこうよ。
 歩ちゃんは、成功したじゃないか……」

「え?十三さんは、知らないのですか?」

「うん?何を……?」

「歩ちゃんの手術、決して成功とは言い切れないんです。
 血管に血栓が、つまるようになったんです。
 手術してから、意識を失ってたでしょう?
 それが、原因だそうです……」

「結構、詳しいんだね」

「勉強しましたから……」

「充君凄いよ」

「僕の将来の夢は、医者になって同じ病気で苦しんでいる人を救うことなんです」

「叶うさ……
 充君、頭がいいから……」

 十三は、そう言って充の頭を撫でた。
 それしかできなかった。
 情けない。情けない。情けない。
 こんな自分が情けない。
 十三は、自分を責めた。

 自分は、命をなんだと思っていたのだろう……
 生きたい命はそこにあるのに自分は、それを辞めようとした。
 だけど、あのまま生きていても何もならなかったかもしれない。

 自殺への後悔と自殺したからこそわかった命の大事さ……

 十三は自分に問う。
 自分は、どうするのが正解なんだろうか……?と。
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