まっしろな遺書
 2015年6月9日

 朝、元太が1人で十三の部屋を訪れる。

「どうしたの?
 今日は、院内学級はないのかい?」

「黙っていたけどよー
 実は、俺、今日、退院なんだ」

「え?
 そうなの?
 お別れ会してないじゃないか……」

「お別れ会は、断ったんだー」

「どうして?」

「俺の家、この病院から離れてないから、毎日遊びに来るからよー」

「そっか……
 でも、それだと学校の友達が出来ないんじゃないのか?」

「友達は、この病院の中にいるし……
 今さら学校に行っても学校の友達なんで出来るわけないぞ」

「まぁ、きっかけがないとね……」

「うん。
 盲腸で半年入院とか恥ずかしくて言えないし……」

「盲腸悪化していたんだろ?
 医療に関しては詳しくはないからわかんないけど、恥ずかしがることはないよ」

「兄ちゃん、ありがとうな」

「え?」

「色々優しくしてくれて、俺らみんな感謝してる」

「どうしたの?
 急に……」

「兄ちゃんには、色々世話になったから……
 んじゃ、俺行くな!」

 元太は、寂しそうな表情を残しそのままその走って去った。

「病院内を走ってはいけません!」

 でも、すぐに千代田に注意され、元太は謝ったあと静かに歩いて十三の病室から離れた。

「十三さん、血圧を計りに来ましたよ」

「あ、はい……」

 十三は、ベッドに戻り横になった。

「血圧は、安定してますね」

「元太君、退院なんですね」

「はい」

「あの子、本当に盲腸なのですか?」

「それは、個人情報なので言えません」

 千代田が、苦笑いを浮かべる。

「そっか……
 個人情報なら仕方がないですね……」

 と言うことは、盲腸じゃないのか……

 元太君、なんで隠しているんだろうか?
 でも、もしかしたら本人も盲腸と思っているのかもしれない。
 ただ、その場合、重い病気なんだろうか?
 元太君のご両親が隠しているのかもしれない。

 十三は、そんなことを思った。
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