まっしろな遺書
 2015年6月21日

 晴れ、十三は朝の6時半に目を覚ます。
 今日は、日曜日。
 そして、美穂は隣で眠っている。

 暑くなるこの時期なのに人肌が心地いい。

 この正体不明の女の子が、誰なのかわからない。
 でも、不思議と嫌じゃなかった。

 十三は、この女の子のことが好きになりつつあった。

 美穂に対しては、そんな気持ちにはなれなかった。
 十三は、強くて泣かなくてヘビースモーカーだった美穂も好きだったけど……
 弱虫で子供好きで優しくて暖かい、そんな今の美穂も好きだ。

 十三は、美穂を起こさないようにベッドから降りる。
 そして、待合室に向かう。

 待合室に向かうと、そこに居たのは、歩の母親だった。
 十三は、軽く会釈した。

 十三は前に歩が、危なかった時など何度かあったことがあった。

「おはようございます」

「おはようございます」

 挨拶を済ませたあと、暫くの沈黙が訪れる。

「貴方が、十三さんですか?」

「あ、はい……」

「いつも娘が、お世話になっています……」

 そう言って歩の母親が頭を下げる。

「あ、いえ。
 むしろ俺の方が、遊んでもらってます」

「いえ、そんな……
 この間も、ご飯を食べれるようにしてくれましたし、本当に感謝しています」

「いえ、なんもしていないですよ」

「あ、そう言えば、自己紹介がまだでしたね。
 私は、歩の母親の石田 稲穂(いしだ いなほ)と言います」

「俺は、詩空 十三って言います」

「はい……」

「で、どうしたんですか?
 こんな朝早くに……」

「貴方には言っておかなければなりませんね……」

「え?」

「歩、もう長くないのです。
 今は、薬で痛みなどは抑えれています……
 でも、術後の拒絶反応は、あるんです。
 なのに、辛いなどの表情を一切見せず、あんな元気に……」

 稲穂は、そう言って涙を流した。
 十三は、充のあの言葉を思い出す。

 「歩ちゃんの手術、決して成功とは言い切れないんです」

 そう、歩の手術は、成功している訳じゃないのだ。
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