まっしろな遺書
 2015年6月22日

 月曜日は、憂鬱のはじまりと言われているが……
 十三にとっては暇の始まりだ。

 十三はふと思う。

  今の美穂は、どんな仕事をしているのだろう。

 美穂は、十三に小遣いを頻繁に渡していた。
 また、お土産もよく渡していた。

 十三が、欲しそうにしているモノが、あれば大抵のモノなら買ってくれる。
 と言ってもほとんどは食べ物だ。

 朝、十三は待合室をブラブラしていると稲穂が、青い顔をして歩いていた。
 十三は声を掛けようか迷ったが、声を掛けることにした。

「稲穂さん?」

「十三さん……」

 稲穂は、十三の姿を見るなりその場で泣き崩れた。

「何があったのですか?」

「歩の病状が悪化しました……」

「悪化?」

「さっき、朝食を食べているときに倒れて……
 今、集中治療室にいます……」

「そうですか……」

 何を言ってあげたらいいかわからない。
 何を言えばいいのかもわからない。
 十三は、言葉に詰まった。

「夫にも先立たれて、歩にも先立たれたら、私……」

 稲穂が、大粒の涙を零す。

  大丈夫。

 そう言ってあげたかった……
 しかし十三は、そんなことを言える自信が無かった。
 充にも「大丈夫」と言った。
 だけど、充はあっけなく逝ってしまった。

 命の儚さが、わかった。

 だから、わかる。

「大丈夫」

 その言葉の無責任さを……
 でも、それでも十三は思った。
 それでも言わなくちゃダメなんだ……

「歩ちゃん、よくなるといいですね」

 稲穂は、頷く。
 それを確かめた十三は、静かに言葉を放つ。

「大丈夫ですよ。
 歩ちゃんは、強い子だから……」

「ありがとうございます」

 稲穂は、暫くその場で泣き続けた。
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