まっしろな遺書
 2015年6月27日

 昨日の夜。
 小さな命が天に召された。

 その命は、多くの人の愛情に恵まれていた。
 しかし、それはあっけなく消えてしまった。

 小さな命は、ゆっくりと呼吸をした後、賢明に生きた証が十三の心の中に刻まれる。

 歩は、今日、家族の元に帰った。
 美穂は、ずっと俺のベッドを占領して泣いている。

 十三も泣きたいけれど、涙が出ない。

 愛も十三の部屋に来て泣いている。
 隼人は、無言で愛の頭を撫でていた。

「私も死ぬのかな……?」

 愛は、そう小さく言った。

「どうして……?」

 十三は、尋ねる。

「私も、白血病だから……」

「白血病は、治る病気だよ!」

「知ってるよ!
 だけど、奇跡が起きない限り私のは治らないもん!」

「奇跡は、起きるから奇跡と言うんだよ」

「十三さん……
 違うよ。
 奇跡は起きないから奇跡って言うんだよ……」

 愛は、そう言って十三の部屋を出た……
 隼人は、下唇を噛みしめる。

「愛ちゃん……」

「愛はね。
 自分がもう長くないことを知っているんだ……」

「え?」

「愛はね……
 わかってしまうらしいんだ……」

「何を……?」

「人の死ぬ時期が……」

「え?」

「いきなり言われても信じれないよね……」

 隼人の目は嘘は言っていない。

「信じるよ」

「そっか。
 ありがとう。
 愛は、それで自分の死期を見ちゃったらしい。
 いつかは、教えてくれないけれど……
 もう、そう長くないんだって……」

 十三は、何を言えばいいのかわからない。
 頭の中が空っぽ。

「でも大丈夫。
 僕も十三さんもまだ死なないから……」

「え?」

「それだけは教えてくれた」

「そっか……」

「あと、それと十三さん」

「なんだい……?」

「んー。
 やっぱいいや。
 僕は、愛を追いかけてくる」

「あ、ああ……」


 隼人は、一瞬、美穂の方を見たあと部屋を去った。
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