まっしろな遺書
 その日、美穂は無言で病室をでた。
 仕事に向かったのである。
 自分に何が出来るか……
 十三は考えたもののわからなかった。

 十三が、そんなことを考えていると病室のドアが開いた。
 千春だった。

「十三さん、今日も散歩に行きませんか?」

「あ、うん」

「今日は、寒いですが噴水の広場に案内します」

「はい」

 千春はニッコリと微笑む。
 十三はベッドから降りると病室をでた。

 案内された場所は、肌寒いそれを噴水はさらに寒さを広げている広場だった。
 だけど風が吹かなければ少し暖かい。
 そんな場所だった。

「ここ素敵な場所でしょ?」

「夏は、涼しそうだね」

「そうなんですよ!
 夏は涼しいですよー」

 十三たちは暫く噴水を眺めていた。
 すると子どもたちが駆け寄ってくる。
 この間怒ったばかりで十三は、少し気まずかった。

「あ、お兄さん!」

 歩が、十三に気づくと駆け寄ってくる。

「何をしているのかな?」

「お絵かきだよー」

 歩は、そう言って十三に絵を見せてくれた。

「上手だね」

 十三がそう言うと歩は嬉しそうに笑った。

「えへへ。
 今度は、お兄さんの絵を描きたい!」

「え?俺?」

「うん!」

 歩は、十三の手を握り締めるとベンチ前の椅子に座らせた。

「じゃ、動かないでね!」

 歩は、そう言って十三から手を離す。

 十三は助けを求めるように千春の方を見た。
 千春ちゃんは楽しそうに十三の方を見ていた。

 十三は、ため息をついた後、絵のモデルに付き合った。
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