まっしろな遺書
 歩みの様態は、安定していき前と同じように遊べることになった。

  死ななくてよかった

 十三は心の底からそう思った。
 ただ自分の中なる闇は残っている。
 安心と同時に死にたいって言葉が浮き上がる。

 でも、腫瘍がある。
 放っておいても死ぬだろう。
 不思議かな?死にたいけど死ぬのは少し怖いそんな感じだった。

 自分が死ねばどうなるのか?
 誰か泣くのか?
 そんな言葉が頭をよぎった。

「生きてるか?」

 美穂が、そう言って十三の部屋に入ってくる。

「俺はもう死んでいる」

「そんな、冗談が言えるくらい元気があってよかった」

「そうだな……」

「うん」

「今日、仕事は?」

「お休みを貰ったよー」

「そうか……」

「私が来ると迷惑?」

「いや、嬉しいよ」

 十三が小さく笑う。

「じゃ、それを証明してよ」

「証明?」

「うん!デートして!」

「でも、デートって……
 外出許可なんて貰ってないぞ?」

「院内デートしよう」

「まぁ、それくらいならいいけど……」

「じゃ、院内デートをしよう!」

「まぁ、それくらいならいいけど」

 十三はそう言うとベッドから降りた。
 美穂がなにを考えているかわからない。
 だけど、逆らう理由もないので見当たらないので許可した。

 庭に出ると子どもたちが元気に走り回っていた。
 だが、病人なんだと思うと十三の胸は苦しくなった。

 その中には車いすに座っている歩みも混ざっていた。
 そして、子どもたちは十三のところまで小走りできた。

「十三にの兄ちゃん。
 女を連れてるぞー」

 元太が、そう言って十三をからかった。

「この人、十三さんの彼女ですか?」

 充が、そう言って目を輝かせている。

「ち、違うよー
 同居人なの」

 美穂が、間髪いれずに答えた。
 正しいことを言われているのに十三は、どこか傷ついた。

「明日も、ここで遊んでいるから、お兄さんまた来てくれる?」

 歩ちゃんが、元気なさげにそう言った。

「うん。
 来れたら来るね」

 十三は、そう返事をした。
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