まっしろな遺書
 2015年2月28日

 まだ寒さの残る2月の最終日。
 脳腫瘍と聞かされた十三は、そのことすらもう忘れかけている。

 バケモンで気を紛らさせて入るもののふと思い出すことがある。

  ああ、俺はもうすぐ死ぬんだな。

 寂しくなる。
 切なくなる。

 十三が、そう思いたそがれていると美穂が言いにくそうにった。


「明日から暫くこっちに来れないかもしれない」

「うん?
 なんかあったの?」

「仕事で暫く東京の方に行くんだ……」

「東京?」

「うん。
 まぁ、実家は東京にあるから暫くはそこに泊まるから、そっちの心配はしなくていいよ」

「うん……」

 美穂の両親は、大阪で働き定年後は祖母がいる東京に行っている。

「十三も心配かけちゃダメだよ」

「え?」

「自殺と浮気!
 これだけは、絶対ダメ」

「自殺は、おいておいて……
 浮気って?」

「銘先生に千春ちゃん。
 可愛い子が、沢山いるからね!
 私、心配だよー」

「まず、俺なんて相手にされないと思うが……」

「ホントかなー?」

 美穂がいたずらっぽく笑う。
 十三は、既に感じていた。
 顔も声も美穂そのものだが中身が違う。
 そして思う。

  この子は誰だ?

「なぁ、美穂」

「どうしたの?」

  聞けば全てが終わる。
  この楽しい日々が……

「いや、なんでもない。
 帰ってきたらまた遊ぼうね」

「うん!
 バケモン勝負だ!
 私、こう見えてバケモン全種類やってるんだから!」

 美穂が笑う。
 楽しそうに笑う。
 十三は、ただ苦笑いを浮かべるしか出来なかった。
 
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