まっしろな遺書
 2015年3月4日

 十三は曇の空を見上げてただ思う。
 曇空は好きではない。
 この曇天は、はっきり言って嫌いだ……と。

 待合室にて懐かしい友人と出逢う。

「あー、十三さん、お久しぶりっす!」

「あ、太郎か?」

「この顔、忘れたっすか?」

 十三はニッコリと笑う。

「顔は、忘れてもその話し方は忘れないよ」

「褒め言葉として受け取るっす」

 この男の名前は、山田 太郎。
 十三の中学から高校までの間の友人だ。
 高校を卒業してからは、あまり連絡を取ってなかったが……
 ちなみに、太郎は、酒屋の三男坊だ。

「それは、そうと萌ちゃんと結婚したんだってな!
 おめでとう!」

「ありがとうございます!」

太郎は、少し辛そうな表情を見せた。

「……大丈夫か?」

「少し話いいっすか?」

 十三は、すぐにわかった。
 萌のことだろうと……

「ああ……」

 十三は、太郎に連れられて屋上にやってくる。

「萌さん、もう長くないらしいっす」

 十三の頭が、その太郎の一言で真っ白になった。

「そっか……」

「乳がんらしいっす……」

「そっか」

「はい……
 付き合ってくれてありがとうっす。
 一さんは、何処か悪いっすか?」

「んー。
 脳腫瘍らしい」

「ええ?」

「まぁ、俺の方は大丈夫だよ。
 心配なのは萌ちゃんの方だよ。
 子どももいるんでしょ?
 子どもには話したの?」

「いや、まだっす……」

「そっか。
 話すなら早めに話してあげてよ?
 子どもも萌ちゃんとやりたいこととかいっぱいあるだろうしさ……」

 十三が、そういうと太郎は小さくうなずいた。

「そうっすね……」

 十三は、それ以上何も言わなかった。
 少なからず十三は残される側の気持ちも少しわかるからだ。
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