まっしろな遺書
 2015年3月5日

 今日、萌が入院する。
 十三は萌の入院を太郎とともに立ち会った。
 萌はベッドの上ではしゃいでいる。

「ベッドふわふわだよー
 思っていたのと全然違う!」

 萌は、まるで子どものように笑っている。
 そして、一瞬表情が固まる。

「萌ちゃん大丈夫?
 胸痛む?」

 銘が心配そうに萌に尋ねる。

「大丈夫だよー
 私、病院のベッドに憧れていたんだー
 思ったよりふわふわで気持ちいい」

 萌が、そういうと十三の方を見た。

「私、いちごミルク飲みたい」

「んじゃ、売店で買ってくるッす」

 太郎が、そういうと萌が太郎の服の袖を掴んだ。

「あー。
 いいよ、俺が買ってくるから……
 銘先生、ちと付き合って下さい」

「あ、はい……」

 十三と銘は病室を出た。
 そして、すぐに萌のすすり泣く声が聞こえた。

 部屋には萌と太郎の二人きり。
 萌は、強い。
 だけど、太郎の前だけは弱さを見せていた。

 出来るのなら、抱きしめて勇気づけてあげたい。
 十三はそう思った。
 だけど、それをするのは自分じゃない

「太郎。
 萌ちゃんのこと、きちんと守ってやれよ」

 十三は、そういうと小さくうなずいた。

「優しいんですね」

 銘が、小さく笑う。

「え?」

「萌さんのこと、気を使ってあげたんでしょ?」

「まぁ、俺も大人ですからね」

「あはは」

 銘笑う。
 十三と銘は。雑談を交わしながらゆっくりと売店に向かった。
 いちごミルクを買い終え、そして萌ちゃんが居る病室へと戻った。

 十三が、ドアに手を当てると今にも泣きだしそうな萌ちゃんの声が俺の耳に入って来た。

「怖いよ……
 ヤダよ……」

 それは、きっと心の奥まで見せる事が出来る太郎だけへの弱音だろう。

「手術、絶対成功させて下さいね」

 十三は、銘の方を見た。

「はい。
 全力を尽くします」

 銘先生は、しっかりとした目ではっきりと答えた。

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