まっしろな遺書
 2015年3月6日

 十三は、萌の様子が気になるので萌の病室に訪れた。
 萌がよこになるベッドの隣には、可愛らしいふたりの子どもが座っていた。
 男の子と女の子、両方共幼稚園くらいの大きさだった。

「もしかして、このふたりって……
 萌ちゃんと太郎の子供?」

「お兄さん誰?」

 女の子が十三に尋ねた。
 男の子の方は、しょんぼりして黙っている。

「えっと、知らないかも知れないけど君たちのパパとママの友達の十三だよ」

「十三さん……?」

 男の子が、声を出す。

「うん」

「知ってるかも……」

「え?」

「写真で見たことあります」

 女の子が答える。

「そっか……」

「僕、山田 瓜(やまだ うり)と言います。
 5歳です」

 男の子が自己紹介すると、続いて女の子も言葉を続けた。

「私は、山田 桃です。
 4歳です」

「瓜君に桃ちゃんだね。
 覚えたよ」

「お母さんの病気治るの?」

 瓜君が、そう言ってじっと俺の目を見る。

「先生が、全力を尽くすって言っていたよ」

「……全力を尽くすってどういう意味?」

「頑張るってことだよ」

 瓜も桃も表情が暗くなる。
 子供ながらに感じているんだろう。
 萌の病気が重いってことを……

  大丈夫。

 十三、はそう言ってあげたかった。
 だけど、それは出来なかった。
 それは、言えない。
 太郎から詳しい病状とか聞いて無いからわからない。
 でも、萌のあの怯えようからしてきっと症状は重いのだろう。
 十三は、そう感じていた。

「あ、十三さん、こんなところにいた」

 千春が、病室に入って来た。

「千春ちゃん?」

「点滴の時間ですよー」

 俺は、そのまま千春ちゃんに手を引っ張られ病室に戻った。
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