まっしろな遺書
 十三の目が、ゆっくりと開ける。
 見知らぬ天井に一瞬動揺した。
 しかし、そんな思いとは裏腹に一気に吐き気が十三を襲った。

「ここは……?」

 吐き気がおさまった十三が、ゆっくりと言葉を吐く。
 すると女性の声で返ってきた。

「病院」

 十三にはその女性に見覚えがあった。
 美穂だ。
 十三より先に自殺した女性だ。

「あれ?美穂?死んでなかったの?」

「第一声がそれ……?」

 美穂が、ボロボロと涙を流す。

「どうした?
 どうして泣いているの?」

「自殺したから……」

「そうか……ごめん」

「謝るくらいなら自殺しなきゃいいのに」

 美穂がぼそりと呟いた。
 十三の心のなかにある何かがチクリと痛む。

「ごめん」

「うんん。
 死ななくてよかった」

「美穂も死ななくてよかった」

 十三は小さく笑ったが、美穂は笑わない。
 真剣な目で十三に尋ねる。

「どうして死のうと思ったの?」

「眠かったから……」

「眠い?」

「生きることに疲れて現実が嫌になって夢の世界に行きたかったんだ」

「みんなつらくても生きているんだよ?
 なのに眠いって!?」

「眠たければ寝る……
 死にたければ死ぬ。
 それってダメなのかな?」

「ダメに決まってるじゃない」

「怒ってる?」

「うん」

「ごめん……」

「だから、謝るくらいなら自殺しないで!
 みんな足掻いてるの!
 必死でもがいて生きているの!
 なのに……なのに……貴方は……」

「さっきも言っただろ?
 眠かったんだ。
 足掻く場所ももがく場所もどこにもないんだ。
 だから、疲れたんだよ。
 もちろん、みんなが苦しいのは知っている。
 だけど俺が苦しいのは誰も知らない」

「バカ!」

「バカでいいよ」

「じゃ、大バカだ!」

「自分だって自殺しようとしてたじゃないか!」

 美穂は、十三を睨みこう言って病室をでた。

「もし、自殺すると言うのなら私が貴方を殺します」

 美穂の声は尖っていた。
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