まっしろな遺書
 2015年3月15日

 十三の部屋には、今日も歩や元太、充は来ない。
 なぜなら勉強があるから……

 十三の部屋に来ているのは、隼人と愛だけだ。

「なぁ、君たちは、勉強しなくていいのかい?」

「僕と愛は、一度聞いたことは忘れないんだ」

「そうなの?」

「うん」

「へぇー。
 凄いんだな?羨ましい」

 瞬間記憶能力ってヤツかな?
 凄いのがふたり揃ってる……

「羨ましくなんかないよ。
 こんなのただの障害だよ」

「そうなの?
 一度、聞いて覚えれるって便利な気もするんだけど……」

「一度見たモノは、忘れない。
 これって、結構辛いよ。
 どんな残酷な場面も忘れることが出来ない。
 そして、僕はその能力に、マルチタスクというモノもあるんだ」

「マルチタスク?
 複数のことを同時に考えるってヤツ?」

「うん」

「へぇ……」

 マルチタスク。
 十三は、それを知っていた。
 使いすぎると脳にダメージがくるって聞いたことがあるのだ。

「いいことも悪いことも全部ひっくるめて考えてしまう。
 これって物凄く辛いこと、十三さんにもわかる?」

 確かに、言われてみれば辛いことなのかもしれない。

「そうだな。
 変なこと言ってごめんね」

「うんん。
 別にいいよ」

「お兄さんには、なんか特技とかないの?」

「特技か……
 あいにく、そう言うのは無いな……
 恥ずかしいけど……」

「別に恥ずかしがることないよ。
 特技が無いなんて普通だよ」

 6歳児の男の子にこんなことを言われる。
 十三は少し、情けなくなった。

「お兄さん」

 愛が、十三の方を見る。

「どうしたんだい?」

「気にしない」

 愛が、ニッコリと笑う。
 そうして、十三の暇な日曜日が過ぎようとしていた。
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